プリウス☆ミサイルは本当にミサイルなのか

皆さん、「プリウス」と聞いて何を思い浮かべるだろうか。

私なんかはガチガチの理系なので「HV」「PHV」がサジェストされるのだが、最近は車の暴走事故といえばプリウスという噂が広まり、「プリウスミサイル」という謎のワード*1が市民権を得ている感がある。

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よく見る事故写真

この記事では噂は本当なのかどうか、プリウスはミサイルなのか、冷静にデータから分析できないかと統計を振り回した結果を報告する。

 

 

はじめに(読み飛ばしてOK)

噂の検証に当たり、どうにも気になるのがその根拠。シフトバーの配置の問題などもあるし、構造上プリウスの発進音が静粛すぎるという指摘も有る。とはいえその程度、他の車種でも挙げようと思えば挙げられるわけで、言うほどのことか?という疑問も浮かぶ。というかシフトチェンジが問題なら、むしろMTのほうがヤバくないか。

 

 そういうふうに考えると、プリウスだけの安全性を考えるより、プリウス以外を含めて多くの車種を比較できるほうが良いんじゃないか、という結論に達した。したがって検証にあたって、プリウスが急発進しやすいとかシフトレバーがわかりにくいとか、そういう個別の技術的問題については検討しないこととした。

検証方法(統計が苦手なら読み飛ばしてOK)

そういうわけで、できるだけ多くの車種の統一的なデータで、かつ安全性に関する値はないか。

探して見つかったデータベースが損害保険料率算出機構(GIRO)の型式別料率クラスである。

Q.
『型式別料率クラスの仕組みってなんですか?』

A.
自動車保険における自動車ごとのリスクを、1、2、3などのクラス別に設定したものです。自動車保険では、自動車ごとの特性(形状・構造・装備・性能)や、その自動車のユーザー層によって、個々の自動車ごとにリスクに差が見られるため、それを型式単位で評価してクラスを適用し、保険料に反映させています。』*2

 
ざっくり言えば、「車自体の危なさ*3とその車に乗るユーザ層の危なさ*4を総合して勘案した指標」ということになる。値はクラスと呼ばれ、最も安全なものが1、最も危ないものが9となる。値は4つの評価項目に分かれているが、うち車両については車両そのものの価格にも影響されるため、今回は残り3つを参考にした。

クラスの高低
クラスの種類
クラスの説明

*5*6
 

で、それら3つの値を総合して勘案するため、以下の計算式で総合評価を算出した。仮にこの値をリスク値と呼ぶことにしよう。

リスク値=100× 対人クラス × 対物クラス × 傷害クラス ÷729

この計算式はオリジナルのもので、できるだけ結果が正規分布に近づくように(=偏差値などの分析が可能なように)勘案したものになる。理論上の分布は0.137~100まで。

そのため単純な相加平均ではじき出した結果とは順位に多少の誤差が出るが、ほんとに「多少」なのでここでは他の方法での検証結果は使わない。気になる人はページ最下部のリンクからデータを自分で弄って遊んでくれるといい。 

使用したデータ*7の内訳は、2018年版の国内メーカー11社、14755車種である。ただし軽自動車は一律「5」であるため入れていない。*8*9

結果

プリウスと各社平均

で、さっそくだが結果を示す。上でも書いたとおり、対象は2018年版の軽自動車を除く国内メーカー11社の14755車種である。

まずは11社の平均とプリウス各車種の平均から。

いちおう各社とも差があるが、言うて偏差値で言えば45~55程度のオーダーであり、ぶちゃけ誤差の範囲だ。メーカーによる差はほぼないと見ていいだろう。強いて言えばスバルが安全?

そしてプリウスだが、たしかに平均よりかは高いものの、飛び抜けて高いわけではない。偏差値も53であり、プリウスも「並」と判断できる。

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各社・プリウスの評価値

つづいて1万4千あまりの車種のリスク値分布を見てみよう。

平均値は9.9、中央値は8.8、偏差は5.2である。

プリウスが属するゾーンが黄色である。最頻値のゾーンよりは上であるが、平均値もプリウスと同じゾーンに入ることに注意が必要だ。中央値より上であるため少しリスクが高いが、平均値程度の「中の上」程度とみなせるだろう。

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ヒストグラム


以上の結果から言えば、平均をものさしとすればプリウスは実に平均的な成績の車だ。では他の車と比較するとどうだろうか?

ワースト

まずはこの評価においてはワースト10となった車を紹介する。なおこれはその車種を誹謗中傷するものではなく、あくまでそういうデータだったと言うだけの話であることは念頭に置いていただきたい。*10*11

ワースト10は同率3位10車種までが該当した。

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リスク点が高かった10車種

まず1位になったのがホンダのシビック1.6。ホンダの大衆車シビックの四代目で、形式EF9が該当する。生産は90年代前半までと少し古い。息の長い車だけに、事故実績が積もり積もったということなのかもしれない。また多くがホンダや日産の古めの車種の中、トヨタハイエース2.7が入っている。なんとなく事故というより事件の匂いがしてしまう「ハイエース」だが、やはり多様な使用実績が事故の母数を増やすのかもしれない。

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ハイエースする、という動詞にもなった車。

ベスト

次に良かった側を紹介する。同率が多いため、10車種ではなく同率4位までの16車種をあげた。

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リスク点が低かった16車種

一番結果が良かったのは日産サニーRZ-1、なんと80年台の車である。さっきとは逆に、長年大切に乗られてきたということなのだろうか。会社で言えば、なんとなく低リスク値にはスバルが目立ち、また高リスクにも多いホンダも目立った。ホンダ車は全体の平均だと全平均を下回ることから、事故の起きやすい車と起きにくい車に二分されているような感じも受ける。また「パジェロパジェロ!」で某番組ではおなじみの三菱パジェロもかなりいい結果が出ている。これは純粋にパジェロの設計勝ちかもしれないなあ。

結論

プリウスミサイルは起きるときは起きるが、起きる確率自体は他車種に比べ大きいわけではない。たぶん。

・車種の新しさをデータの3軸目に加えると、また違う結果が出そう。(データベース募集中)

データ

こちらにエクセルデータを置いておく。ご自由にどうぞ。

https://pm.matrix.jp/upload/upload.cgi?get=00044



*1:ちなみに「プリウス」は「先駆けて」、「ミサイル」は「投げられるもの」という意味のどちらもラテン語である

*2:型式別料率クラスの仕組み ~2019年12月31日以前~|損害保険料率算出機構

*3:プリウスで言うところのシフトレバーの特性など

*4:語弊を恐れずに言うなら、DQNかどうか、ということ

*5:型式別料率クラスの仕組み ~2019年12月31日以前~|損害保険料率算出機構

*6:料率クラスとは?/損保ジャパン日本興亜

*7:このサイトから各社のものを全て引っ張った。いちおうGIROと何車種か対比させ、信頼性についても検証はした。2018年版トヨタの自動車保険料率クラス車種別データベース

*8:たとえOEMなどで同じ車でも、メーカーが違えばユーザ層が変わるためクラスは変化することに注意

*9:元データでかなり細かく車種が分かれているため、バージョンが多い車では母数が多くなってしまうという欠点がある。今回のデータ分析程度なら影響はないと踏んでいるが、もしかすると車種の統合で変化はあるかもしれない

*10:類似形式をまとめて紹介する関係で、本来の順位とは異なるがご了承願いたい

*11:類似形式をまとめないより詳細なランキングはデータ参照