宝塚大阪ライナー運行休止へ 大阪直行バスの明と暗

今年1月4日から運行が始まった大阪空港交通「宝塚大阪ライナー」が、今月末で早くも運行休止となることが発表されました。*1

平日限定2往復と限られた運行で、乗車率も芳しくない様子が伺われる中で、期間も3ヶ月とかなりの短期間での終了となり、事実上の運行撤退となります。

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 宝塚大阪ライナーとは?

宝塚大阪ライナーは、昨年末に大阪空港交通が発表した新しい高速路線バスです。

運行区間宝塚駅前バス停から大阪駅前を経由してなんば駅まで。大阪空港は経由せず、全区間中国道阪神高速の高速道路を走行し、バス停は阪急バスと共用となります。

運賃は宝塚~大阪エリアで1000円均一、大阪まで40分、なんばまで1時間の設定です。

平日に2往復することで、鉄道が並走する区間ながらも「宝塚から大阪までの着席需要」に応えようとした意欲的な路線設定でした。また1963年の大阪空港交通創立以来はじめての、空港リムジンバス車両なのに空港を経由しない路線ということで、その意外性にも注目が集まりました。

運行開始リリース

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1日2往復、朝夕の出退勤に合わせたダイヤだった。

登場の経緯

昨年は4月よりコロナの影響が高まり、首都圏近郊のみならず、関西、そして関西3空港への旅客需要も大幅に減退しました。

当然、路線バス各社(神姫バス阪神バス他)が運行する空港へのリムジンバスも大幅な減便や車両変更を余儀なくされました。
とはいえ路線バスが本業である各社については、副業もありますし、バスや運転手の有効活用も可能です。しかし大阪空港交通は、その性格上空港輸送に特化しており、その本丸事業が大打撃を受け、バスも運転手も宙ぶらりんのまま維持しなくてはいけなくなったのです。

そこで設定されたのが、今回休止となる「宝塚大阪ライナー」でした。

 

運行の狙い

大阪空港交通にとって、この路線はコロナ禍、さらには延長を重ねる緊急事態宣言で余剰になったバスと運転手を有効活用し、さらには新しい需要を掘り起こすことだったと思われます。

とくに鉄道各社においては、混雑を避け、有料でも座席を確保する動きが高まっていました。たとえば京都~大阪での京阪のプレミアムカー、京都~阪神~姫路での新快速Aシートや通勤特急などです。しかし宝塚地域では、そうした動きは比較的弱いもので、JRの現行の特急こうのとりチケットレスサービスが導入された程度に留まっています。

そこに通勤に特化したバス路線を走らせることで、一定の需要を得ようと考えたのではないでしょうか。

 

実際どうだったのか

私自身は一回しか見ていませんが、一便あたり数人と、なかなか閑古鳥が鳴く状態だったようです。

 

 原因としては、微妙な時間設定と運賃、並行する鉄道路線の性格が災いしたことでしょうか。

往復には少し早く少し遅いダイヤ

宝塚大阪ライナーは、朝の到着は大阪7:30か8:00、なんば7:50か8:20で、夕方はなんば18:00か19:00、大阪18:15か19:15出発というダイヤでした。

定期券で通勤すると考えた場合、往復で別の交通機関ということもあまり無いでしょうから、なんばでは9時間半~11時間程度の勤務時間である想定となります。現在コロナで短縮勤務であるならば長すぎ、9時間拘束としてもバスのダイヤや勤務先の所在地が上手く噛み合わないと使いづらいのではないかという感じがします。残業があれば帰りのバスはそうそう間に合いませんしね……。

また梅田勤務であるとすると、ますます行き帰りの時間が開いてきます。宝塚線福知山線の始発駅と考えると、わざわざバスを選ぶケースは限られてくるでしょう。

 

少し高めの運賃と並行路線

宝塚大阪ライナーでは1000円の均一運賃を設定していました。これを並行する鉄道と比較すると次のようになります。

 

宝塚大阪ライナー

特急こうのとり

マイシート

福知山線

快速

阪急電鉄

大阪まで

1000円/40分

約780円/25分

330円/28分

280円/35分

なんばまで

1000円/60分

約1010円/40分

560円/45分

510円/50分

※ 大阪~なんばは御堂筋線、マイシートは20日で日割り計算

 

宝塚駅阪急電鉄の始発駅であり、一本待てば確実に座れます。大阪までの着席需要という意味では、宝塚大阪ライナーには勝ち目がありませんでした。

そう考えると、宝塚大阪ライナーのアドバンテージは「なんばまで乗換なし」「着席保障」の2点に限られてくることがわかります。しかしこの「乗換なし」も、例えば本町や心斎橋などなんばから少し離れた勤務地の人には関係がありません。そうしたなんば駅から徒歩圏内ではない人からすれば、「どうせ乗り換えるなら、安く快適な電車にしよう」と思っても不思議ではありません。さらにJR線の特急こうのとり号も時間は限られるとは言え走っており、さらにこちらは「時間によっては同じ定期券で快速を使う」など柔軟な利用も可能。しかも1000円出すならばJR特急のマイシートすら選択肢に入ります。

隠れた需要を拾おうとして、ごく限られた需要にだけリーチしてしまった結果となったわけです。

 

今後はどうなる

いちおうは「休止」であるため、バス路線の免許は残ります。そのため復活も無くはないです……が、緊急事態宣言も終わり、本業の空港輸送も復活する中で、なかなかテコ入れは難しいでしょう。

一方で、休止一ヶ月前となる2月には沿線住民、さらに延伸候補?なのか丹有学区の住民にアンケートを取るなど、輸送改善へむけた努力も見て取れました。

 

同じ大阪への直行バスとしては神姫バスの三田新大阪線が大成功を収めるなど、バス自体が不利というわけではありません。奇しくも令和3年度改正では同路線が大増便となったことと、まさしく明暗が分かれる結果となってしまいました。

住宅街を経由したり、混雑する御堂筋線の沿線沿いにバス停を置くなど、さらに工夫を重ねて復活することを期待しましょう。